拷問

2001年9月30日
その日、私はニューヨークに居た。先日の事件のことなど何のその、街には活気の溢れる店が並んでいる。私はその一角にある、異国情緒漂う店に入った。
「こちらへどうぞ」
何やら奇妙な衣装を纏った年輩の女性が席に案内してくれる。椅子もこれまた奇妙で、何やら様々なスイッチのようなものがついている。これでいったい何をしようというのだろう。
そして驚いたことに、目の前には鏡があった。店内を広く見せるための工夫だろうか。
突然、私は体の自由を奪われた。私はもがこうとしたが、身動きが取れない。
老婆は不気味な笑顔で話しかけてくる。
「どのようにしますか」
意外にもそれは日本語だった。私は一種の安堵を覚えた。しかし私の身が危険であることに変わりはない。質問に答えなければ。だが私にはその質問の意図が理解できなかった。どんな拷問にかけるかという意味だろうか。ともかく早くこの場から逃れたい。錯乱気味の私はこう答えた。
「なるべく短めにお願いします」
「わかりました」
どうやら通じたようだ。と、安心したのも束の間、老婆は先端に刃の付いたスタンガンのようなものを取り出すと、スイッチを入れた。不快な音が鳴り響く。やめてくれ。私は声にならない声を上げる。
老婆はそんな私の気持ちをまるで無視するかのように私の頭にそれを差し込む。私は死を覚悟した。しかしそれは頭皮の寸前で止まり、今度は頭の頂点へ向かって滑り出した。髪の毛が落ちる。そうか、すぐに殺さないで生殺しにするつもりなんだな。
「倒しますよ」
老婆はそう言った。私はその言葉の意味がわからず呆然としていたが、すぐに異変に気付いた。椅子が動いている。より正確には、倒れている。なるほど、老婆の言う通りである。瞬く間に私は仰向けにされてしまった。そして老婆が取り出したのは、極太の筆のようなものだった。先端には泡のようなものがたっぷりとついている。老婆はそれで私の顔中をくすぐりはじめた。これは俗に言うくすぐり地獄の刑というやつか。負けるもんか。私は必死で耐えた。老婆も諦めたのか、新たな器具を取り出しに行った。出てきたのはカミソリだった。老婆はカミソリを私の喉元にあてがうと、不適な笑みを浮かべた。このまま頸椎を掻き切ろうというのか。カミソリが動く。もう終わりだ。しかし妙なことに痛くない。確かに喉元でカミソリが動いている感触があるのにだ。おそらく血が蕩々とと流れていることだろう。もはや私の意識はなくなってしまっているのだろうか。いや、確かに意識はある。あくまで生殺しなのか。カミソリが移動する。次は耳か。そうして顔中をカミソリが這い回った後で、椅子を起こされた。生きた心地がしなかった。ようやく拘束を解かれ、私は逃げるように椅子から飛び退く。
「1500円になります」
ふざけているのかこの店は。これだけ苦しめておいて金まで取ろうというのか。しかし払わなければまた何をされるかわからない。私はしぶしぶ財布を取り出した。

二度とこんな店なんか来るもんか。外に出て、私は体の疲れが押し寄せてくるのを感じていた。くしゃみを一つ。二つ。三つ。何やら頭が涼しい。もう家に帰ろう。

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

日記内を検索